「graduation」 ClariSアルバム BIRTHDAYより
今週のお題「卒業」
- アーティスト: ClariS
- 出版社/メーカー: SME
- 発売日: 2012/04/11
- メディア: CD
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淡いピンク色の風が私の髪をかすめ春を感じさせる
柔らかく暖かな吹雪が視界全体に広がり私は思わず足を止めた
その吹雪の向こう側には見慣れたはずの校舎がいつもより違う雰囲気で見えて新鮮だった
「早かったなぁ…」
私は思わずつぶやいていた。すると隣から
「そうだな」
と聞き慣れた声を耳に感じた
隣には彼がいた
私たちは目を合わせると何を言うわけでもなく歩き出した
歩き始めたとたんまた吹雪が私達を包んだ
私はその吹雪に吹かれよろめき、後ろに倒れそうになる
倒れそうになる中、私の目前には散りばめられたピンクと眩しいくらいのブルーが広がっていた
そして私は手を捕まれなんとか踏みとどまれた
「大丈夫か?」
聞き慣れた優しい声が私に囁く
ああ、あの時もこんな感じだった
・
・
・
私は目の前に広がる光景を見てただただ立っていた
呼吸が早くなり手のひらがじんわりと濡れる。足は動かず、思考が回らない
初めて来た街の初めての学校
その第一歩目は早くも失敗の色が濃くなり始めていた
目前では校舎の前で一喜一憂する人間がたくさんいた
そこから向けられる好奇の目線
そんな目線から逃れるようと私は震える足を叩きなんとか前へ進んだ
混みあった校舎前の少しの階段を上り来たところで目の前を一人の男の子が走り過ぎる
その男の子を躱し一安心した、してしまった
その男の子に続くように数人の男の子が目の前を走る
私はその男の子達を躱しきれずよろめいた
階段から落ちている中、私の目前には灰色の校舎とそれに続く雲、どんよりとしている空の青さが目に移った
(なんでいつも運がないんだろう)
そんな事を心で思いつつ重力に体が取られていく
そんな中誰かから手を捕まれなんとか踏みとどまれた
「大丈夫か?」
優しい声が私に囁く
誰がなにを言っているかわからないくらいうるさかったのに
彼の私を心配する声だけははっきりと聞こえていた
彼はそれだけを言って歩いて校舎の中に入っていった
もう一度見上げた空はさっきより綺麗だった
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私と彼が同じクラスでしかも彼の出席番号の一つ後と知った時はなぜか救われたような気がした
私はお礼を言いたかった
クラスを探す手間が省けてよかった
私は入学式の最中、彼の後ろでなんてお礼を言おうか悩んでいた
色々な言葉が浮かんでは消えていく
やっと言うことを考えついた頃には入学式は終わろうとしていた
終わる…、と思ったら突然緊張が高まり
(今日は無理)
という思いが強くなっていった
私はひとりごとのように
「また明日でいっか…」
とつぶやいた
その「明日」はまだ来ていない
・ ・ ・
卒業式も終わりクラスメイトが教室で別れを惜しんでいる頃、私達は朝と同じ道を歩いていた
二人で学校の思い出を語り合いながら一歩ずつ踏みしめながら歩いた
思い出の果実を少しずつ絞り心のコップから零れないように
一緒に勉強したこと
放課後たくさんおしゃべりしたこと
今みたいに毎日肩を並べて一緒に帰ったこと
私が失恋した時に慰めてくれたこと
バレンタインに告白して付き合い始めたこと
受験でいらいらして些細なことで喧嘩して数ヶ月会わなかったこと
その間とても胸が苦しくて辛かったこと
久しぶりに出会って会話出来たことがとても嬉しかったこと
こうして卒業して二人で笑い合えること
かけがえのない時を過ごせたこと
1滴1滴とコップに注いでいるうちに互いの家の分かれ道に来た
おそらくここが人生の岐路でもあることがなんとなく分かった
数日後には彼は遠くの大学に行くため引っ越してしまう
何か言わなければ後悔すると思った
しかし言葉が出てこなかった
彼は少し手を上げ「じゃ、また今度」と言って歩き出した
どうすればいいかわからなかった
その時私の口が私の意思の外側で動いた
それはまだ来ていなかった「明日」を呼び寄せるたった5文字の言葉だった
「ありがとう」